8月の出来事だった。館内の食堂に何組かの食事利用客がいた。
突然、男の客が「迷惑だ、外で食う」と言ってお盆に乗ったラーメンの器を
揺らしながら外のベンチに向かった。
食べ終わって、金を払うから出て来い!と食堂の人を呼んでいる。
金を払う段になって、なぜ館内が禁煙になってないのかと、しつこく責め立てている。
食堂で働く女性が困っているので、責任者として出て行った。
岩木観光物産案内所という看板で、弘前市から観光案内の業務を事業として
受けている以上、そろそろ全館禁煙にすべきだとは考えていた矢先だった。
ただ、観光客の喫煙者が多くいたのも事実であって、灰皿も置いていた。
怒って興奮している男性に、ごもっともです、近い将来に全館禁煙も考えている事を
伝えたが後に引かない。今すぐ全館禁煙にしろという。
「それでは、弘前市に苦情を申し上げるか、新聞社に投稿するとか、お気の済む
ようにしてください。」と言って、名刺を差し出した。名前を聞いても言わないので、
その場を離れた。
実は、私も煙草は吸う。周囲を気にして吸うようにしているし、半日吸わなくても
気にならない程度だが、ヘビースモーカーの人には住みにくい世の中なのは当然だ。
これを機にシーズン途中で「全館禁煙」を実行した。館内に手製の禁煙マークを張り、
自らも外で吸うようにした。
この際だからと、一ヶ月で止められるという「離煙パイポ」を購入した。
11月になり、食堂を含む案内所は閉館した。岩木山観光協会に訪れるお客達も
なれたようで寒空の下で身体を揺すりながら急ぎ煙草を吸うようになっている。
ただ、やたら意味もなく、タバコを目の敵にしたようなことをいう人がいるが、
少数派になってしまった「喫煙者」としては腹が立つ。周囲に迷惑をかけず、
肩身の狭い思いで隠れるように吸っている我々に追い打ちを掛ける必要などないだろう。
もう時効だから言えるが、高校生の頃はよくオヤジのタバコをくすめて吸っていた。
大学に入ってからは、まだ、19歳にもかかわらず大人になった気分で町の中を
くわえ煙草で歩いた。この頃の映画、「エデンの東」「第三の男」「黄色いリボン」
「夕陽のガンマン」「嵐を呼ぶ男」と、芸術性の高い映画から娯楽映画まで、主人公の
俳優の条件の中にタバコが似合う、タバコを吸う姿が美しいことだった。
ジェームズ・ディーン、J・ウェイン、C・イーストウッドから、タバコを取ったら様に
ならない。
現在は、タバコを吸うシーンは、殆どと言っていいほどなくなった。
悪役のイメージをより悪くするためか、回想シーンで古い時代を表す為に使われるくらいだ。
岩木山麓という超自然の環境にいて、タバコの話をしていること自体が不謹慎ではあるが
何か寂しい時代になったような気がするのだ。








